どうも、Webマーケター兼中小企業診断士のトーマツです。
「中小企業は一点集中、差別化すべき」
診断士として中小企業支援に携わっていると、支援現場や勉強会などで結構な頻度でこのような意見を耳にします。
これはポーターの競争戦略やランチェスター戦略でも謳われている内容であり、「ある一定の条件を満たしていれば」正しい戦略であると言えます。
ただし、私の経験上9割以上の方々が「ある一定の条件」を無視して、盲目的に「差別化集中戦略」を唱えている節があります。。。
経営者の方々の勘違いは我々コンサルが正せますが、コンサルたる診断士が勘違いしていたのでは何も上手くうまくいきません。
というわけで、本記事では「中小企業の正しい差別化戦略」について解説したいと思います。
▼最近はじめたYouTubeでも解説しております!ちょっと内容は異なりますが、こちらも覗いてみてくださいね!
- 中小企業の経営支援に携わるコンサルタント
- 中小企業経営者
「中小企業=差別化戦略」は思考停止?まずはPoint of Parity(POP)を意識しよう
では、正しくない差別化戦略とはどういうものでしょうか?
それは、差別化に集中しすぎるがあまりに「消費者がその商品を購入しようと思った際に、当然に満たしていると考える機能・価格」を満たせていない状況を指します。
ややこしい言い方をしましたが、ひとことでスパッと言うと、消費者にとって「なければ買わない点」を満たしていない状況です。
「なければ買わない点」を満たしていないので、当然、消費者に選ばれるわけがありません。
誤った差別化戦略とは?
例を挙げます。過去にこのようなツイートをしました。
どれだけ食材やサービスにこだわったとしても、うどん屋というカテゴリーで戦う以上、競合よりも10倍以上高い価格で販売していては勝ち目がありません。
多くの顧客が「うどん屋」に求めるのは「それなりの美味しさ」と「リーズナブルな価格帯」だからです。
「10倍以上高いうどん」を買いますか?
語弊を恐れずに言えば、多くの消費者は「うどん」に感動するほどの美味しさを求めておりません。
「それなりの美味しさ」で良いのです。
差別化を意識するがあまり、このニーズを無視して、「価格を犠牲に、突き抜けるほどの美味しさ」を追求しても上手くいかないでしょう。
少し古いデータですが、JNetによると「うどん」の1回あたりの利用料金のボリュームゾーンは「500~600円未満」のようです。
では、競合が500~600円未満でうどんを提供している中、自社が5,000円のうどんを売っていたらどうなるでしょうか?
変な例かもしれませんが「山盛りトリュフうどん」のように、話題性が出る商品に仕上げられれば、もの珍しさで最初の数杯は売れるかもしれません。
しかし、この価格帯では、リピートを得るのは難しいでしょうし中小企業がリピート抜きで戦うのにも限界があるでしょう。
「差別化できていない」より「一発KO負け」の方が危険
少し想像力を働かせれば、ほとんどの方が理解できると思いますが、大多数のお客様は「5,000円」という価格を見た瞬間、高価格うどんを食事のオプションから外すことが想定できます。
どれだけ味やサービスにこだわっていてもお客様にその価値が伝わりません。まさにお客様から一発KO負けを喰らってしまっている状況とも言えるでしょう。
つまり、お客さまが「うどんというカテゴリー」に求める価格帯を満たさない限り、戦いの土俵にすら立てないのです。
この状況を改善するには、差別化要因である「味」「サービス」の改善に努めるよりも、「価格」や「原価」の改善に集中すべきです。
これは差別化とは真逆の世界で、むしろ「競合商品との同質化を目指すこと」を意味します。
中小企業に真っ先に求められる視点は、同一商品カテゴリーが満たすべき最低条件(その他競合が当然満たしている機能・性質)を満たすことです。
差別化を標榜すべきなのは「この最低限満たすべき条件を全てクリアしてから」とも言えます。
カギは「POP(Point of Parity)」
この「同一商品カテゴリーが満たすべき最低条件」をマーケティング用語で「Point of Parity(POP)」と言います。
該当する商品カテゴリが備えていて当たり前の性能とも言えます。
先ほどのうどんの例では価格を取り上げましたが、POPには価格以外にも機能・性質も含まれます。
例えば下記。
- ハンドソープ:手をきれいに洗える
- ファストフード店:提供が早い
- ホテル:オンライン予約ができる
確かにどれだけ匂いが良いハンドソープでも手がきれいに洗えなければNGですし、提供の遅いファストフードなんて自己矛盾も甚だしいですよね。
また、どれだけ感動的な体験を売りにしたホテルでもオンライン予約ができなければ、スマホ社会の現代では戦えないでしょう。
「非購買理由を潰していく」イメージが重要
どんな商品やサービスにも同一カテゴリが備えていて当たり前の性能があります。
当たり前を満たしていないと、途端に顧客から一発KOを喰らってしまいます。
こうした理由からPOPは「非購買理由」とも呼ばれています。
「POP」を意識しているのと意識していないのとでは世界の見え方が全く異なります。
なぜなら中小企業の商品・サービスが売れないほとんどの理由はPOPを満たせていないからです。
逆説的ではありますが、「非購買理由」を潰していくことで「売れる商品・サービス」をつくることができます。
月並みですが、これを行うには顧客と競合理解が何よりも大切になります。
「同質化」を経て「差別化」が正しい
POPの話をすると良く以下のような反論を頂きます。
「ウチの商品は唯一無二のニッチ。だから競合に比較されない。POPなんて関係ない。」
世の中にこれまでになかった価値を生み出せているような革新的な商品であれば、確かにその通りなのかもしれません。
ただ、このような発言の99.999%以上はただの強がりといえます。
理由はこの世に比較されない商品・サービスなどごく一部に限られるからです(一部のグローバルに成功した商品)。
どんな業態のどんな価値を提供している商品・サービスにも競合はいますし、POPは存在します。
POPを無視することの危険性
架空の例にはなりますが、例えばあなたがドラクエの次回作を独占販売可能なコンシューマーゲーム用ハードウェアである「ネクストエンジン(仮名)」を開発していたとします。
PSもニンテンドーもXBOXもドラクエを販売できませんので、全ドラクエファンは「ネクストエンジン」を購入せざるを得ません。
そこであなたは「ネクストエンジン」の価格を30万円に設定しようと考えます。
PSを含む他のハードウェアは数万円台で販売されているものの、ネクストエンジンはドラクエユーザーへの独占販売権を持っているようなもので、あなたは気にしません。
また、ドラクエは基本1人プレイなので、PSやニンテンドーが持っているようなネットワーク接続機能もいらないし、ハードのデザイン性も頑張らなくても良い。
あくまでも「ドラクエをプレイしたい」と言うニッチなニーズに応えているから。
どれだけニッチを狙っても結局比較される
さて、ここで一度ご質問しますが、こんな考え方でビジネスはうまくいきますでしょうか?
答えはNoです。
理由は「ドラクエユーザーの100%が必ずしもドラクエをプレイしなければならない状況ではないから」です。
ドラクエユーザーは心の中で「ドラクエをプレイすることで受ける便益とその対価のバランス」を常に考えています(意識下か無意識下のどちらかは置いておいて)。
仮にドラクエをプレイするのに30万円の費用を強いられるのであれば、行けていたかもしれない「海外旅行」を失う等の機会コストが発生します。
機会コストとは、ある決断を下した際に他のより有力な選択肢から得られたであろう利益を失うことを指します。利益を取り損ねるということから逸失利益とも呼ばれます。
「海外旅行」は体験的経験価値を充足しますし、「余暇の充実」という意味で「ドラクエをプレイする」ことに対する「価値競合」になりえます。
つまり、ネクストエンジンの価格帯を30万円にしてしまったことで、戦う必要のなかった「海外旅行」という大きな敵と比較される状況を生み出してしまっているのです。
「同質化」を経て「差別化」
このようにビジネスの現場においては、どんな戦略を取ったとしても直接競合以外の「価値競合」との比較を受けます。
2010年ごろのiPhoneの登場時のように、長い期間にわたって圧倒的な価値を生み出すイノベーティブな商品であれば別ですが、中小企業に世界を変えることができる革新的な商品は生み出せません。
この現実を受け入れるべきです。
どんな戦略を取ったとしても少なからず比較をされるのであれば、自分達の商品が戦う上で最も有利な場(商品カテゴリー)のPOPをいち早く把握し、その最低限の条件をクリアしたのち、どうやったら競合と差別化できるのか?を考えるべきです。
「同質化」というステップをすっ飛ばして「差別化」を行なっていては上手くいきません。
ぜひ今後は「商品カテゴリーのPOPを充足する(同質化)」→「競合との差別化」の順番で戦略検討を行うようにしてみてください。
次回は「Points of X フレームワーク」について
ちょっと長くなりましたので、続きは次回に回したいと思います。
次回は「Points of X」というフレームワークのご紹介を通して、中小企業の差別化戦略の具体的な立て方について解説したいと思います。
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