どうも、Webマーケター兼中小企業診断士のトーマツです。
「中小企業は一点集中、差別化すべき」
診断士として中小企業支援に携わっていると、支援現場や勉強会などで結構な頻度でこのような意見を耳にします。
しかし、記事前半では「9割以上の人たちがこの概念を誤って理解されている」ことを説明しました。
まだ前半を読んでいない方や、上記のどこが誤っているのかが分からない方はぜひ前半記事をお読みください。
記事後半では、「Points of X」というフレームワークのご紹介を通して、中小企業の差別化戦略の具体的な立て方について解説したいと思います。
Point of X(POP/POD/POF)とは?
「Points of X」とはブランド論の権威である、ダートマス大学のケビン・ケラー教授(マーケティング)が提唱した「差別化戦略のフレームワーク」です。
頭文字をとってPOXとも呼ばれます。
ケビン・ケラー教授(ダートマス大学)。素敵な笑顔です。
POX(POP/POD/POF)とは?
POXでは以下の3つのポイントから「競合に対する自社商品・サービスの位置付け」を整理します。
マーケティングコンサルタントなら抑えておきたいPOP/POD/POF
記事前半をお読みいただいた方は既にPOPは分かりますよね。
そう「商品カテゴリが備えていて当たり前の価値」です。
POPは直訳すると「競争的類似点」です。
こう表現されると少し分かりづらいですが「競合他社と価値が同じなので、顧客が自社ブランドを選ぶ理由にはならないが、自社が持って無いと選ばれない価値」とも捉えられます。
PODは、言葉通りです。競合他社とは異なる独自の価値であり「顧客が自社ブランドを選ぶ理由」を指します。
POFは、競合他社のみが保有する価値で「競合他社が選ばれる理由」です。競合にとってのPODとも言えますね。
婚活を例にPOXを考える
例を挙げましょう。
あなたは婚活市場においてパートナー探しをしている男性であると仮定します。
あなた以外の競合もパートナーを探していますし、候補の女性の数(市場)は有限ですので、競争環境にあると考えられます。
なお、あなたはご自身の清潔感に自信を持っていると仮定します。
この状況をPOXフレームワークに当て込んだ場合は以下の通り整理できます。
「清潔感があること」はスタートラインに立つ絶対条件であり、選ばれる理由にはなりません
婚活市場において清潔感は絶対の必須。マスト中のマストです。
つまり、婚活市場において、清潔感を持っていることは差別化要素にはならず、持っていて当たり前の要素(POP)とも言えます。
一方、「話してて楽しいか?楽しくないか?」は差別化要素(POD)になり得ます。
便宜上、ここでは「競合Aさんは話が面白い」「あなたは話が面白くない」と仮定させていただきますが、この場合、「話してて楽しい」が競合AさんのPOD、「話が面白くない」があなたのPOFとなります。
シンプルですが頭の整理に使えますね。
あなたにとって正しい戦略は?
いやいや、でも現状整理ができただけでは意味がありません。
分析結果から次の戦略・打ち手を導くことが現状分析の目的です。
では、上記の状況におけるあなたの正しい戦略はなんでしょうか?
以下の2択があった場合、どちらを選ぶでしょうか?
- 話術を磨き、Aさんに追いつく
- 自分自身の新たなPODを見つける(つくる)
ご自身が置かれている立場によって異なりますが、大多数にとっての正解は②です。
新たなPODを見つける=「市場を絞る+伸ばしやすい価値に集中」
②の方が良い理由は、新たなPODを見つける行為が「市場を絞る」+「伸ばしやすい価値に集中する」行為であり、省エネで実施可能だからです。
ピンとこない方のために解説します。
先ほどの例において、パートナー候補としてWさん、Xさん、Yさん、Zさんの4名がいたとします。
意識的か無意識的かは置いておいて、彼女たちはパートナーに対して「最低限の清潔感」を要求します。この点は全員共通です。
一方、彼女たちがパートナーを選ぶ基準は以下の通り、それぞれ異なります。
最低限の清潔感は求めるものの、最重要事項は異なる
Wさんは最重要事項として「話が面白い」を挙げており、その他の3名も次点として「話が面白い」を挙げております。
まさに話術に長けたAさんの独壇場ですね。
この状況であなたにとって最適な戦略はなんでしょうか?
もしあなたが少しの努力で話が面白くなるのであればまだしも、「全く面白くない状況」から「面白くなる」には相当の努力が必要ですし、もしかしたら一生叶わない道かもしれません。
一生叶わない場合、あなたは一生パートナーに恵まれない可能性が出てしまいます。
つまり自らに無駄な努力を強いてしまうわけです。
一方、仮にあなたが少しの努力で「家事スキル」を手に入れられるとしたらどうなるでしょうか?
そう、Xさんのハートを掴むことが出来るのです。
これが正しい差別化集中戦略
家事スキルはあくまでも一例ですが、あなたがもし雰囲気イケメンであれば、もう少し努力して本物のイケメンになる努力をする。
あるいはもう少しで収入アップが叶うキャリア状況なのであれば、収入アップを目指す。
このように少しの努力で一部のターゲットに響く男性になることが、あなたにとって正しい戦略になります。
POXの本質は顧客から選ばれること
冒頭でPOXは競合に対する位置付けを整理するフレームワークと申しました。
ただし、その本質は「顧客を見る」ということです。
「顧客が何を求めているか?」を整理し、その後に競合の戦略的ポジショニングを確認する。
そうすることで、まずは顧客の最低要求(POP)を把握する。
その後、顧客が最終決定を下す際に最重要視する要素(PODを当てるニーズ)の中で、競合が取りこぼしている隙間を見つける。
その隙間が見つかったら、そこをなるべく最短ルートで開拓していく。
これこそが中小企業にとっての正しい差別化・集中戦略です。
差別化戦略の4ステップ
ここまで婚活を例にPOXの使い方を説明しました。
ここからは、明日から皆様がご自身のビジネスに適用できるよう4つのステップについて説明したいと思います。
- 顧客ニーズの再確認
- 競合を定義し、POPを徹底分析(顧客が望む最低限の価値)
- POPを充足し、PODを見つける
- 業界No.1になったら競合のPODを無効化
一つずつ説明します。
①顧客ニーズの再確認
最初のステップは顧客ニーズの再確認です。
例えば、あなたがBean-to-Barのクラフトチョコレートを作っていた場合、Bean-to-Barクラフトチョコレートに顧客が求めている価値が何なのかを分析します。
制約は色々あるかと思いますが、最も効果的な方法は「顧客インタビュー」「ユーザー行動観察調査」を行うことです。
このような顧客調査を行う際にN=●を目安とするのが良いか?を聞かれることがありますが、概ねN=5としておくと間違い無いでしょう。
中小企業の場合は大規模なマーケットリサーチを行うことは稀だと思いますが、インタビューにおいて統計上有意な情報を得ようと思うとN=400は欲しいです。
Bean-to-Barチョコレートの場合、
- 高品質カカオ豆の使用
- 個装のデザイン性が優れており、使用者のステータス向上に寄与できること
- 健康面での利点(添加物や防腐剤不使用)
- 高カカオと食べやすさの両立
- 贈答用の包装やサービスがしっかりしていること
- 持続可能な栽培と生産をおこなっていること
- ユニークなフレーバーとの組み合わせ
- 種類が多い
- 価格がリーズナブル
- ECで手に入るので忙しくてもOK
以上のようなニーズが考えられます。キリがないのでここで留めておきましょう。
次に行うべきはこれらの要素を「商品」「サービス」「経験価値」「買いやすさ」「価格」の5軸で整理することです。
以下に例を示します。
「ファイブウェイポジショニング」と呼ばれる、星野リゾートの星野社長も使っているフレームワークです。
インタビューを行う際に気をつけたいポイントは「商品を評価する理由を直接聞いてはならない」ということです。
ご自身の普段の購買行動を振り返っていただきたいのですが、ほとんどの消費者は物・サービスを購入する際に「深く考えません」。
そのような人たちに対して、「なぜ?」と問いかけても取ってつけたような理由が返ってくるだけです。
つまり、インタビューを行う際は顧客の「行動事実」のみ確認し、その行動を取った背景・心理状況を推測するという方法の方が示唆の多い分析が可能になります。
②競合を定義し、POPを徹底分析
次に行うべきは①で整理したニーズに対して、競合がどの程度充足できているかを調査することです。
こうすることでPOPを分析します。
業種・業態によっては調査が難しいケースはありますが、例えばBean-to-Barチョコレートであれば、ECモールで5~10社程度調査するだけでも多くのことが見えてきます。
それぞれのニーズ要素を5段階評価で競合の力を測ることで、以下の通り、Bean-to-Barチョコレートにおける顧客の最低要求(POP)が抽出できます。
実践はこんなに単純化できないので、自社で表現方法を工夫しましょう
こちらはかなり単純化しておりますので、業種・業態によって表現方法や分析方法は工夫ください。
一点、注意して欲しいのは競合の選定方法です。
競合を選ぶ際には、必ず、売れ行きの良い会社を選ぶようにしてください。
言い換えると、売れてるか売れてないか不明という場合は、その会社を含めないでください。
これは、売れていない競合を分析に組み込んでしまうと、POPが誤って表現され、顧客の最低要求を履き違えてしまうからです。
③POPを充足し、PODを見つける
次は自社商品がPOPを充足しているかを確認します。
中小企業診断士が携わる案件は、そのほとんどが「POPが満たせていないことが多い」です。
例えば、上の例では、Bean-to-Barチョコレートにおいて「SDGsへの配慮」が4以上求められております(フェアトレードへの対応、持続可能な栽培と生産への対応、など)。
自社商品の「SDGsへの配慮」に対する評価が「2」であれば、足切りにより、顧客から一発KOを喰らってしまいます。
この場合、Bean-to-Barチョコレート市場での戦いを継続する経営判断をするのであれば、「SDGsへの配慮」の点数をあげ、足切りを喰らわないようにすることが「経営上の最重要アクション事項」となります。
これが達成できれば、次はPODの発見です。
例えば、自社のBean-to-Barチョコレートは沖縄産の黒糖を使っているが、実はこの沖縄産黒糖が「添加物が入っていないこと」が明らかになったとします。
この場合の自社の戦略は、添加物が入っていないため、小さいお子様やアレルギー持ちの方でも安心してチョコレートを食べられること、すなわち「健康面の訴求に全振りすること」です。
全振りパラメター(POD)を特定したら、他はPOPが充足できていれば十分と考える
この際、他のニーズ要素はPOPを充足さえしていれば「それ以上頑張らない」というスタンスが必要です。
中小企業はリソースネックになりがちです。まずはPODの強化に集中しましょう。
④業界No.1になったら競合のPODを無効化する
仮に自社のシェアが業界No.1になったとします。
この場合、次にとるべき戦略は「他社のPODを無効化すること」です。
すなわち「自社のPOFを排除すること」です。
これはまさにランチェスター戦略において「強者の戦略」に位置付けされている方法論です。
このように他社のPODをどんどん無効化することによって、自社シェアを伸ばしていくことを考えていきましょう。
まとめ
以上、本記事では「Points of X」というフレームワークのご紹介を通して、中小企業の差別化戦略の具体的な立て方についてについて解説させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
もし本記事の内容でご質問ある方は是非コメント欄に書き込んで頂けると幸いです。
お答えできる範囲で答えさせて頂きます。
それではまた!