どうも、Webマーケター兼中小企業診断士のトーマツです。
本日は久しぶりに書評記事です。
取りあげるのはB2Bマーケティングで有名なWACULの垣内氏(代表取締役)の「BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?」。
手に取ったきっかけは、マーケティング界の巨匠の方々がTwitterで絶賛されていたことでしたが。
率直にこの判断は正解でした。
本書は、マーケティングの理想系が実現しているとは言い難い多くの日本企業にとって、「組織の壁」を突破するヒントや、純粋に明日から使えるテクニカルマーケ術がふんだんに記載されております。
BtoBマーケティングと関係する方であれば皆読むべき必読書です。
この書評を読んで1ミリでも興味が湧けばぜひポチってみてくださいね!
それではどうぞ!
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BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?
BtoBマーケティングの定石
なぜ営業とマーケは衝突するのか?
著者:垣内勇威
出版日:2022年11月25日 初版発行
出版社:日本実業出版社
ページ数:272
定価:(本体2,420円)
著者プロフィール
株式会社WACUL代表取締役。東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善施策の提案から施策効果の検証までデジタルマーケティングのPDCAをサポートする自動分析・改善提案ツール「AIアナリスト」を立ち上げる。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Marketing Lab.」を創設し、所長に就任。現在、研究所所長及び代表取締役として、事業のコアであるナレッジ創出を牽引。新規事業や新機能の企画・開発及び大企業とのPoCなど長期目線での事業推進の責任者を務める。2022年5月、代表取締役に就任。著書に『デジタルマーケティングの定石(日本実業出版社)』がある(本より抜粋)
どんな内容?
その名の通り「BtoBマーケティングを成功に導く考え方や技術」をまとめた書籍となっております。
著者の前作である「デジタルマーケテイングの定石」では、デジマの「How To」の部分が詳細に解説されておりました。しかし、いくら「How To」がわかったとしてもそれでは片手落ちです。というのもいくら担当者が正論を振りかざしているつもりでも、組織は正論では動かないからです。
会社・組織全体をハラオチさせ、効率よく実行フェーズに移るための「組織の力学」も踏まえた方法論の解説も含まれている点で他の本とは一線を画す内容になっていると感じました。
語弊を恐れずに言うと、ファンダメンタルズ領域は「人間感情により沿った右脳的なマーケティング」、テクニカル領域は「データに基づく左脳的なマーケティング」と理解することができると思います。
おすすめな読者
著者は「BtoBマーケティングに関わる人すべてにおすすめ」とおっしゃっていますが、下記に該当する方は必読と言えます。
- 新しくデジタルマーケティング部門が設置された企業の部門責任者・担当者
- BtoBのデジタルマーケティングでなかなか成果が上げられていない企業の部門責任者・担当者
- SaaS企業の経営者・事業責任者・マーケティング担当
- 対象顧客数の少ない企業のマーケティング責任者・担当者
本書の構成
本書は下記のとおり、7つの章で構成されております。
まずChapter 1ではBtoBマーケティングが失敗しやすい理由の説明を通じて共通認識をつくり、その後、組織→戦略→戦術→施策という流れでハイレベルな論点から細部まで全網羅的に解説しています。
BtoB企業でマーケティングを機能させるには?ーはじめに
Chapter 1
なぜBtoBマーケティングの大半は失敗に終わるのか?
- BtoBマーケティングは何度も失敗を繰り返す
- マーケティングの理想系は小学生でもわかるくらい簡単
- マーケ担当は権限と人望がなく、自己満足に走る
- 顧客視点で組織を越える「世直し革命」を起こす
Chapter 2
組織の定石 「短期売上」から「顧客視点」への革命を起こす
- 分業神話に囚われず革命を起こすワンチームを組成する
- マーケティング・デジタルの専門家が必要ない理由
- 顧客視点を徹底するためには「役割分担」してはいけない
- 絶対に失敗しない「クイックウィン」で見方を増やす
- 営業も知らない「忖度なき顧客の悲鳴」を共有する
- 組織の境界線をまたぐ「何でも屋」で革命を起こす
- 成果につながらない無駄な仕事をやめさせる
- 顧客視点のKPIを追加して革命状態を維持する
Chapter 3
戦略の定石 貴社に本当に必要なマーケティングとは?
- 「BtoB」という分類は何も行っていないに等しい
- 3つのターゲットユーザ分類軸で戦略を選ぶ
- 1社1社営業する「個別接客戦略」
- 保有している顧客リストを狙う「既存顧客発掘戦略」
- お客様の商品知識に合わせた「説得後ろ倒し戦略」「説得前倒し戦略」
Chapter 4
戦術の定石 トップ営業の生み出す「顧客体験」を再現する
- ソリューション営業任せという発想はマーケター失格
- 「トップ営業の顧客リスト管理」を再現する
- 「トップ営業が顧客に愛される理由」を再現する
- 「トップ営業の巧みな障壁設計」を再現する
- 戦術を3つのフェーズに分けて組み立てる
Chapter 5
日常生活フェーズ 「信頼」と「純粋想起」を獲得する
- 約50%の人は営業と会う前に購入を決める
- コンテンツで潜在顧客とつながり連呼で純粋想起を獲得する
- 価値あるコンテンツは「非常識」「網羅性」「エンタメ」から生まれる
- 魂を込めた書籍は「思想」まで伝わる最強のツール
- ウェビナーは「内職」を止めさせるエンタメ性を追求せよ
- 記者とWin-Winの関係を作りメディア掲載で認知を広げる
- ホワイトペーパーの撒布で顧客情報と信頼を獲得する
- 展示会は名刺獲得に専念する 即商談は非効率極まりない
- メールマガジンの件名で連呼し純粋想起を獲得する
- SNS投稿とリツイートで知人界隈に情報を届ける
- 自社ブログだけ作っても誰も来ない廃墟になる
Chapter 6
初回購入フェーズ 「商談」と「商品」の障壁を下げる
- 新規受注は、継続受注やアップセルよりもずっと難しい
- 初回購入ハードルの低い商品を設計する
- インサイドセールスが潤滑油になって商談を設計する
- リードを獲得するなら何よりも優先してCVを設計する
- Webサイトは説得できない CV直行がつねに正解
- 入力フォームは簡単なだけでなく簡単そうに見せる
- デジタル広告はAIと共存できる体制を作る
- SEOは検索ニーズを読み取り CV直行を狙う
- メールの記号や煽りを避けてビジネスマナーを守る
- ウェビナーは「健在ニーズの検知」か「商品紹介の効率化」が目的
- 販売代理のアライアンスは現場営業に黙殺されて失敗する
Chapter 7
継続購入フェーズ LTVトリガーを定性調査で見極める
- マーケターなら商品そのものを磨いて「LTV」を最大化せよ
- 顧客体験改善のため「定性ユーザ行動観察調査」を実施する
- 定性ユーザ行動観察調査を簡単に実践する方法
- 購入直後に最も手厚いサポートで信頼を獲得する
- 「続ける理由」と「従量課金」でLTVを最大化する
- 「離反リスク」「アップセル機会」のシグナルを検知する
「すぐに活かせるノウハウ・考え方」3選
組織論から戦略、戦術まで幅広い領域をカバーしている本書ですが、全ての論点を紹介していていはキリがありませんので、私が特に感銘を受けた論点を3つ紹介させて頂きます。
①組織の定石:絶対に失敗しない「クイックウィン」で見方を増やす
本書では「組織の定石」章において、マーケティング担当者は「なるべく早く組織にクイックウィンをもたらすべき」と述べています。
「クイックウィン」とは、営業含む組織全体が「成果」と認めざるを得ない実績を指します。
理由は、営業組織はマーケティング部隊が行なっていることに常に反発心を抱いており、このような仲間割れを起こしている状況では、本書が目指すような「組織だった顧客視点での価値提供」は実現しないからです。
「また質の悪いリードを取ってきて。。。」「面倒臭い仕事を増やしやがって。。。」みたいな状況というとイメージ頂けますでしょうか。
これを打ち破るためにも、本書では、マーケティング部隊が、いの一番に行うべきは「売上アップ」と述べています。
「売上アップ」の効果を身をもって実感してもらえれば上記のような仲間割れは回避でき、顧客への価値提供にフォーカスできるようになるからです。
メールマーケティングは最もおすすめの「クイックウィン」施策
では、クイックウィンはどのように達成すべきなのでしょうか?
私が本章で特に共感したのが、著者が、このクイックウィンをもたらす方法として「メール」を取り上げられていたことです。
「メール」というと古臭いと思われる方も多いですが、今でもかなり費用対効果の高い集客施策として機能しております。
既存事業におけるリストが豊富な企業であれば、ほぼ無視できるコストで運用できますし私自身、クライアントに対して真っ先に提案している手法です。
デジタルマーケティングというと、最新MAツールの導入などの「さも仕事をした感」が出るような領域が注目されがちですが、営業はツールの導入に興味はありません。
メールの具体的な効果の説明は本書に譲りますが、営業含む組織全体が味方になってもらえるよう、早期に成果(売上・利益)を上げることの重要性を説いているこのパートはぜひ多くの方にお読み頂きたいと思います。
②戦略の定石:3つのターゲットユーザ分類軸で戦略を選ぶ
2点目は「BtoB企業のマーケティング戦略の考え方」に関してです。
「BtoBマーケティング」というと、それっぽい言い方に聞こえるかもしれませんが、本書では「BtoB」という分類は「何も言っていないのと同じ」と断言しています。
BtoB事業のなかには、SaaS型のビジネスもありますし、ハードウェアを扱う企業もある。スタートアップなのかレガシーなのかによっても顧客の数や特性が異なるからです。
本書では、詳細な分類を経ることなく、全てを「BtoB」と括っていても何の戦術も語れないと述べています。
ターゲットユーザ分類軸で戦略を選ぶ
本書では、マーケティング戦略を考える上で、以下の3つの軸で企業分類し「やらなくて良いこと」を抑えることが重要と述べています。
- ターゲット企業の数
- 既存顧客リストの数
- 顧客の商品知識
これらの軸を用いると企業を以下の5つのカテゴリーに分類することができます。
「BtoBマーケティングの定石」図3-1を基に作成
一つ目の軸は「ターゲット企業数が100社以下かどうか?」です。本書では企業がこれに該当する場合、「個別接客戦略」を採用すべきと述べています。「個別接客戦略」をとるべき企業は、そもそもターゲット企業数が少ないため、マス広告のような広いターゲットに向けた認知活動は無意味です。文字通り1社1社名指しでアプローチし、営業していった方が良いと断言しています。
一方、デジタルマーケティングの普及によって、本来1社1社開拓していくアプローチが効率的にも関わらず、流行りに無意味に乗っかり、リソースを無駄にしてしまう企業も多いとのことです。
また、3つ目の分類軸として「顧客の商品知識」が問われていますが、こちらも興味深い分類と感じました。
商品知識の多いユーザーは自分自身で情報を精査することが可能なので、マーケティング段階(顧客と会う前のフェーズ)においてできる限り情報を提供することが求められます。つまり商品知識の多いユーザーを相手にする企業は「説得前倒し戦略」を採用するのが良いとされています。
逆に商品知識の少ないユーザーに対しては、サイト内の商品ページの情報量を増やしても、敬遠され読まれないのがオチなので、できる限り早い段階でインサイドセールスがアプローチをかけ商品知識の提供をじわじわ行うことで顧客教育をおこなっていきながら、最後に説得をかける「説得後ろ倒し戦略」をとるのが良いとされています。
詳細は割愛しますが、以上のように本書では、各企業分類ごとにとるべき戦略や、やらなくて良いことを明確にガイダンスしてくれています。
③小刻みにゴール設定
最後は「小刻みにゴール設定を行う重要性」についてです。
あらゆるマーケ現場で言われていることですが、初回購入フェーズは最も顧客による購入ハードルが高いです。
日常業務において、ゆるい情報収集をおこなっている顧客がいきなり高額商材の購入を行うことは考えられないからです。
本書では、この障壁を乗り越えるには、顧客の状態(商品への理解度・熱意・購入のコミットメント)に応じて、細かなゴールを設定し「ハードル設計」を設定すべきと述べています。
例えば、初回購入に導く前に「初回トライアル無料」を訴求したり、効果を理解しづらいコンサルティングを売りたい場合、その前段として「安価な有料勉強会」から契約することが、このアプローチに該当します。
これらの細かい階段を設計することによって、最後に目的とするサービス・プロダクトにつなげていく。この考え方は、経営コンサルティングを売りにしている私のような中小企業診断士にも当てはまりますので、大変共感しましたし、改めて自身のサービスのハードル設計を見直したいと思いました。
まとめ
以上、本記事では「BtoBマーケティングの定石」の書評をさせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
もし本記事の内容でご質問ある方は是非コメント欄に書き込んで頂けると幸いです。
お答えできる範囲で答えさせて頂きます。
それではまた!