どうも、Webマーケター兼中小企業診断士のトーマツです。
2017年に日経新聞にてAIに代替される可能性が最も低い士業として紹介された「中小企業診断士」。
この記事の内容を見て「診断士を目指そう!」と思った方も多いのではないでしょうか?
現役診断士としては嬉しい内容なのですが、果たして本当に中小企業診断士はAIに代替される可能性が少ないのでしょうか?
そして、仮に代替される可能性が少なかったとして、これは喜ぶべきことなのでしょうか?
これらについて考察してみましたので、ぜひ勉強の箸休めとしてお読みください。
- 中小企業診断士を目指している方
中小企業診断士は本当にAIに代替されないのか?
17年の日経新聞で紹介されていた士業のAI代替可能性は以下のとおりです。
日経新聞「AI時代のサムライ業(上)代替の危機 新事業に挑む」を基に当ブログにて作成
こちらのデータは、2015年に野村総研と英オックスフォード大の共同研究による「10年~20年後に、AIによって自動化できるであろう職業・技術」に基づくものです。
野村総研とオックスフォードの研究内容
この数字をみると「うわっ、診断士すげぇ!」となりますが、研究の前提条件や分析内容が分からないと何も判断できませんよね。
というわけで、少し調べてみました。
2015年の野村総研のニュースリリース「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」によると、本研究では日本国内における601の職業について、オックスフォード大学のオズボーン准教授が米国および英国を対象に実施した分析と同様の手法で、AI・ロボットなどで置き換えられる確率を計算したものになります。
なお、オックスフォード大学のオズボーン准教授の研究結果は「The Future of Employment : How Susceptible are Jobs to Computerisation」にまとめられております。
英オックスフォード大学:オズボーン准教授の研究
「マネジメント業務」「非定型業務」もAIに代替される
こちらの論文を要約すると、本研究は米国労働省が運営するO*Net(職業情報ネットワーク)に調査・分析・掲載している903の職業とそれぞれに求められる知識・スキル群に対して、向こう20年のビッグデータ蓄積・機械学習・強化学習の発展予測に基づき、各職業のAI・ロボットによる代替可能性を研究したものです。
米国労働省:O*Net(職業情報ネットワーク)
これまで守られるとみられていた多くの「マネジメント業務」やマニュアル化しづらい「非定形業務」などもAIやチップ性能の発展に伴い、代替される可能性が高いとされております。
「社会性」「創造性」「感知力・操作力」がカギ
また、当該論文によると、コンピューター代替のボトルネック要素を持つ職種は守られると言及しています。
ボトルネック要素として挙げられたのは「社会性」「創造性」「感知力・操作力」。
オズボーン准教授の研究内容に基づき当ブログにて作成
協調力、交渉力、説得力や、サービス志向性(他者への貢献意欲)が求められる仕事は、AI・ロボットに代替することが難しいとされております。
この研究手法が野村総研によって、サムライ業を含む国内601職種に適用され、中小企業診断士は社会性が求められるということで「AIによる代替が難しい職種100選」に選ばれたわけですね。
では研究の結論は妥当か?
研究の妥当性でいうと「Yes」になります。
というのも本研究はO*Net、ならびに労働政策研究機構による労働者サンプルに基づいて確率計算をしているにすぎないからです。
一方で、私はこの日経新聞の記事を読んで「うわっ、社労士や行政書士のようなAI代替可能性が高い士業より、中小企業診断士を目指そう」などと読者をミスリードしてしまう可能性があると感じました。
理由は下記のとおり。
- 他士業も「社会性」が求められることを考慮できていない
- 他士業が他職種に就ける可能性を考慮していない
- 中小企業診断士のほとんどはそもそも中小企業コンサルティングを行っていない
①他士業も「社会性」が求められることを考慮できていない
本研究結果では、行政書士のAI代替可能性が「93.1%」とされております。
根拠としては、行政書士業務のほとんどが建設業や宅建業などの許認可や株式会社の設立に伴う登記業務等の手続き業務が主であるからでしょう。
たしかに、政府によって進められているデジタル庁構想が加速すれば、各種行政登録書類の書式が統一されれば、行政書士の主業務がAIによって代替される可能性も高くなるでしょう。
一方で、事業者の代理人として建設許可をとるために行政と折衝したり、複数のステークホルダーとの調整が絡んできます。
これはオズボーン准教授が言及する「社会性」の要件に入るでしょう。
おそらく本研究は、各士業の主業務のみを抜き取ってきたが故にこのような結論になったのだと思いますが「行政書士の主業務は行政手続きなので、社会性は不要」と結論づけるのは短絡的であると感じます。
②他士業が他職種に就ける可能性を考慮していない
また、本研究は各士業が、それぞれのスキルを活用して他職種に就ける可能性も考慮できておりません。
例えば、社会保険労務士は人事労務の知識を基に、人事コンサルタントとして企業の組織・人事開発に貢献することも可能ですし、実際にそのような方々は私の知人含めたくさんいらっしゃいます。
コンサルとして活躍するということは、当然、社会性スキルが求められます。
また、中小企業診断士は独占業務が無いがゆえに、企業の戦略立案・マーケティングなど幅広い業務に携わることができ、研究の建付け上、業務定義が立てづらかったがために「AI代替可能性が低い」という結論になったものと邪推しております。
この仮定に基づくと社労士のような他士業が「独占業務の範囲内のみ」でAI代替可能性を評価されることはあまりにもアンフェアと言えるでしょう。
③中小企業診断士のほとんどはそもそも中小企業コンサルティングを行っていない
この日経新聞の記事を読まれて、中小企業診断士になろうと思った方は要注意です。
というのも、本研究でサンプル対象となった方は、プロコンサルとして実際に中小企業の経営コンサルティングに携わっている方だからです。
一方、中小企業診断士資格保有者の7割以上は企業内診断士であり、ほとんどの方は、「活動をしていない」か「副業として補助金申請業務」に携わっているだけ、なのが実情です。
補助金申請業務は非常に大事な仕事ですが、そのほとんどが企業の分析情報に基づいて定型フォーマットに記入するという、まさしくAIに代替される可能性が高い業務であるとも言えます。
中小企業診断士になったからと言って、すぐに中小企業のコンサルを担えるわけではなく、資格取得はあくまでも入り口であることを認識することが重要であると言えます。
まとめ
以上、本記事では「中小企業診断士は本当にAIに代替されないのか?」について解説させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
日経新聞の記事によると、中小企業診断士業務のAI代替可能性は0.2%であるとされております。
これは現役診断士としては嬉しい限りですが、その一方で、この数字のみで資格の価値を判断するのは危険であると考えます。
現在、診断士を勉強している方は、資格取得後こそが本番であり、取得後も日々自己研鑽を積まなければならないことを念頭に置いておいていただければ幸いです。
もし本記事の内容でご質問ある方は是非コメント欄に書き込んで頂けると幸いです。
お答えできる範囲で答えさせて頂きます。
それではまた!